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2013/12/31 (Tue) 近藤史恵 「サクリファイス」

本年最後のブログは一編の小説を紹介して締めくくろうと思います。

近藤史恵 『サクリファイス』(新潮社 平成22年)。

大藪春彦賞を受賞し、その年の本屋さん大賞で2位に選ばれた作品です。
ロードレースを題材としたサスペンスとなっています。
ロードレースのチームには「エース」とエースをサポートする「アシスト」というポジションがあるそうです。
アシストはエースのために風除けとなって前方を走ったり、相手を撹乱するためにアタックを敢行したり……と、要するに個人の成績を犠牲にしてチームの勝利のための捨て駒となる選手です。

主人公・白石誓はそんなアシスト。そして、彼が所属するチームのストイックなエース石尾豪。
二人を軸に物語は展開します。

作品の最後は、白石のこの物語の主題とも言える言葉で締めくくられます。

「あの人だからだよ。今までずっと、アシストたちの夢や嫉妬を喰らい、それを踏みつけて、ゴールゲートに飛び込んできた、あの人だからだ」
その重さも、尊さも、すべて知っていた彼だからだ。
ぼくの喉も震えた。彼は誰より理解していた。
「勝利は、ひとりだけのものじゃないんだ」
自分が受け取り続けたバトン、夢や嫉妬や羨望でまみれたバトンを、彼は間違いなくぼくの手に渡した。(中略)
あのとき、あなたがぼくの背中を踏みつけて飛び立ったように、ぼくはあなたの背中を踏みつけて、これから飛ぶ。
それをおこがましいとは考えない。
ぼくの勝利は、ぼくだけのものではない。

「勝利はひとりだけのものではない」。なんとも陳腐でチープな言葉ですが、作品を読み通すとその重さがわかります。
それを知っている人間こそ、真に勝者たる資格があるのだと気付かされます。
白石はこうも言っています。

自らの身を供物として差し出した月のうさぎの伝説のように、自分の身体をむさぼり食ってもらえれば、そのときにやっと楽になれるのではないかと。
だが、現実にはそんなことは起こりえない。
むしろ、それは、ひどく尊大で、人に負担を強いる望みだ。
だれも、他人の肉を喰らってまで生きたいとは思わないだろう。

この本をはじめて呼んだのは学生のときでした。
まだ数年前の話です。
今の世の中にこそ、ふたたび脚光を浴びてほしい小説だと私は思っています。

来年一年がすべての人にやさしい年になるよう祈って本年の締めくくりとします。







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2013/12/12 (Thu) 今年の漢字

今年の漢字がきまったようですね。
「輪」。

毎年恒例、個人的今年の漢字。
「暴」。
ヘイトスピーチによる言葉の暴力。
圧倒的多数の与党の暴走。
国民や国連の懸念を無視して秘密保護法を強行採決する暴挙。

社会に暴風が吹き荒れた一年間でした。

しかし、暴の字も訓読すれば「暴く」。

逆風に負けず不義を暴く、その精神が日本人に根付くよう願うのみです。


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2013/12/06 (Fri) 秘密保護法が可決されたなあ……

まあ、こうなることはわかっていたので特別な感情は抱きませんが。
社会がいっそうきな臭くなって参りました。
国民の精神状態が心配です。
人のことは言えませんが。

怒るべきときに怒れない、恐怖を感じるべきときに恐れない。
不安を感じすぎる以上に危惧すべき状態です。
うつ病や不安症の場合は薬の効力でそういう状態になることがあるのですが、我ながらなんとも人間味のないことだと。
なんか、みんな人間を捨ててしまっている感じですね。



今日は一日中うごきぱなしでくたびれました。

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2013/12/05 (Thu) 無題

弱い者達が夕暮れ
さらに弱い者をたたく
その音が響き渡れば
ブルースは加速していく
見えない自由がほしくて
見えない銃を撃ちまくる
本当の声を聞かせておくれよ

TRAIN TRAIN /THE BLUE HEARTS より


この詩がやたらこころに響く世の中になったなあ……

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2013/12/03 (Tue) 石破茂発言について

天下の悪法、特定(されない)秘密保護法が物議をかもし、いよいよ世間も騒然となってきたかなと感じます。

今日はふと「正しさ」について考えてみました。
人間はひとりひとり独立した個人として存在しますからそれぞれ異なる価値観を持つことは当然ですし、価値観が違うから信条や思想も異なってくる。いちいち説明しなくてもいいような、自明の理です。
しかし、最近はこの自明の理を忘れているか、ともするとそもそも知らないのではないかと思わせるような人たちがたくさんいます。

それぞれ違う正さの尺度をもっている。
そして自分が正しいかどうかは自分だけでは判断できないものです。
他人の考えと突き合わせて、それでも正当性を主張できるかどうかが大切です。
他人の批判を受け容れることなく自分の正しさを貫くことは出来ないのです。

秘密保護法は必要だと主張する人たちがいる。それは一つの「正しい」判断なのかもしれません。
しかし、それに対して異を唱えること。
市民が声を上げること。
国民の批判を「テロ」だと言い撥ね退ける。

その時点で正しさは失われています。

民主主義の原点は多様性です。
多様性を認め、様々な正しさを突き合わせて合意にもっていく。
今は「多数決」という手法に省略されてしまっていますが、それこそが民主主義の本来の姿ではないでしょうか。


精神疾患は、誤った思い込みから生じることがあります。
「これが正しい判断だ、これ以外に道はないんだ」と思い込み、袋小路に行き詰まるのです。
自分の中の多様性・相対性を押し殺した結果ともいえます。
今の日本は全体が精神病的な危うさを抱えていると危惧しています。







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Author:sugerball
うつ病、社会不安障害もち。ニートから波止場のデイワーカーにジョブチェンジ? 日々の生活や雑考をつづります。

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